なぜ名前が変わる魚が「出世魚」なのか?縁起がいいとされる訳とは
人間、どうも縁起を担ぐのが好きらしく、例えば受験シーズンともなると、「落ちる」「滑る」という言葉を避け、「落ちない」「滑らない」ものをお守りにしてみたという方も多いはず。受験や大事な試合当日には「かつ丼」を食べたり、酉の市の熊手を毎年少しずつ大きくしてみたり、結納品などもある意味縁起を担いでおめでたい文字を使います。
さて、「出世魚」、これも縁起を担ぐものとして有名なもののひとつ。
でも、具体的にどの魚が出世魚なのか、ご存知ですか?
出世魚ってどんな魚?
出世魚というのは、生まれてから大きくなるまでに名前を変える魚のことです。
一番有名なのはブリかもしれませんね。
ブリは、日本のほとんどの地域で「ブリ」と呼ばれていますが、「ブリ」になるまでは地域によって呼び方が違います。ですが、ほとんどの地域で稚魚から大きくなるまでに名前が変わります。
例に挙げますと、関東では「ワカシ」→「イナダ」→「ワラサ」→「ブリ」と名前を変えていきます。地域によっていろいろな名前になっていますが、大人になるまでにほぼ2回以上は名前を変えています。
スズキも出世魚と呼ばれています。「セイゴ」→「フッコ」→「スズキ」(地域によってその「スズキ」の後、「オオタロウ」と呼ばれるところも。)が一番有名な名前かもしれません。
このような魚たちが「出世魚」と呼ばれています。
なぜ名前が変わる魚が「出世魚」なのか
名前の変わる魚がなぜ「出世魚」と呼ばれ縁起がいいのか、それは歴史が好きな方ならご存じかもしれませんね。
その昔、日本では武士は元服(成人式。昔は、成人年齢は20歳ではなく、各家庭によってさまざまですが、多くは12歳から16歳くらいの間に男の子は「元服」という大人になる式を行い、その後は大人としての振る舞いを求められました。家の事情で5歳、6歳などで元服する人もいたそうです。)
すると、子どもの頃の名前を大人の名前に改めました。その後も、何かあると名前を変えることがあったそうです。
徳川家康でいいますと、「竹千代」→「松平元信」→「松平元康」→「松平家康」→「徳川家康」と名前が変わります。
名前を変えた理由もその都度あり、元服して名乗った「元信」は今川義元から一文字もらい、「元康」にしたのは、敵対している織田信長の「信」を連想するのを避ける今川への気遣い(それだけ今川の中枢にいた)。
「家康」は今川とは手を切り織田と一緒に戦うという意思表示のために「元」という字を捨てるパフォーマンス。
改姓は朝廷の位がいただけることになった時におこなったそうです。
当時は一個人の名前というものがとても大きな意味をもっていたのだと思います。
どんどん名前が変わり、そのたびに大きな人間へと成長していく偉人達を連想させる、ということで、名前が変わっていく魚たちも「名前が変わる=出世」という縁起かつぎになっている、ということなのです。
ちなみに「鯉」は出世魚ではない
鯉も出世を願う縁起のよい魚として掛け軸に描かれていたりしますが、厳密にいうと鯉は「出世魚」ではありません。
ただし、縁起がいいといわれている理由がほかにあります。
中国の故事に由来していて、「竜門という急な流れの川を登りきった鯉は龍になる」と言われ、「難しいこと、大変なことを突破してほしい」という思いが込められています。
「登龍門」という言葉もこのことにちなんでいて、出世や自分の思う道に進むときに通る難関、もしくはその難関を突破したときに使われていますね。
こいのぼりも実はこの故事が元になっていて、急流を登って龍となった鯉のように目標に向かってしっかり頑張って出世してほしいという願いが込められています。
「出世魚」は「大きくなると名前が変わるので縁起がいい」というものなので、鯉は「出世魚」とは言わないそうです。
スーパーや鮮魚店で魚を買おうとすると、季節によって名前が変わる魚には一瞬戸惑うかもしれませんが、その成長度合いでのおいしさというものもありますので、「ブリでなければ買わない」のではなく、ぜひワラサも食べてみてくださいね。
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